世界のME/CFS専門医や患者会が論文撤回に向けて署名にて抗議!オクスフォード大学精神科医らが認知行動療法と段階的運動療法のME/CFSへの効果を発表。研究者らと政府と保険会社との利害関係や研究方法、倫理的問題に非難の声。

オクスフォード大学の精神科医教授マイケルシャープ氏が、ME/CFSの一番の治療法が認知行動療法と段階的運動療法であると発表したことに対して、ME Association、ME Actionなどの海外患者会は、「受け入れがたいこと」として、抗議している。
ME Action
ME Association 
 
ME Associationのアドバイザー医師チャールズ・シェパード氏は、「この病気は神経系の障害で、認知行動療法は、MEの治療には関係ない。」とする。
数週間で、一万筆を越える論文撤回への署名が集まっている。(11月12日づけの記事による)
 
 
一方、シャープ氏は、MEが重篤な疾患であることを否定しているのではなく、薬物療法やペーシング療法に比べて、認知行動療法と段階的運動療法のほうが長期的な効果があり、研究後、2年経ってもその効果は持続しているとしている。
 
「このリハビリ療法は、魔法の治療法ではないが、効果があるという証拠をもつ唯一の療法だ。」という。
 

 
段階的運動療法や認知行動療法のCFS患者への適用については、多くの議論が存在する。
それは、その有効性を裏付ける大元になった論文自体の信憑性に対して大きな疑問が投げかけられていることによる。
 
医療ジャーナリストDavid Tullerが、この研究論文の問題を指摘し、世界的な研究者たちもこの論文、そして、2015年に新たに発表されたマイケルシャープ氏らの論文を批判し、論文の撤回を求める署名運動が続いている。
医療ジャーナリストDavid Tuller「TRIAL BY ERROR: The Troubling Case of the PACE Chronic Fatigue Syndrome Study」
この研究の土台となったのは、2011年に発表された「PACE Trial」である。
今回の論文は、この研究に参加した患者を数年後にフォローアップしたアンケート結果から導き出された。
 
イギリスにおいて多額の研究費をかけて行われたME/CFS研究「PACE Trial」自体は、当時からその研究内容や方法、研究者の動機、研究者と政府や保険会社との利害関係などが疑問視されてきた。
David Trullerの主な指摘は以下に要約される。
1)17人(19人?)の研究者のうち、3人は、ME/CFS患者に保険料の支払いを避けたい保険会社のコンサルタントとして働いていたこと。保険会社は、これらの医師コンサルタントから、認知行動療法と段階的運動療法を患者にさせれば、保険料を長期的に支払わずに済むというアドバイスをしていた。
2)研究者たちは、ME/CFS患者への長期的な給付金をストップさせたいイギリス政府によって選出された。
3)被験者のうち、13%がこれらの心理療法などを始める前から、すでに「回復した」と分類されてしまうほど、「回復」の基準が低く設定されていた。
また、実際に療法によって悪化した人も療法後のアンケートでは、「回復した」と分類されてしまう人もいた。
4)研究の途中段階で、被験者に対してニュースレターが送られてきたという異例の事態があった。
そのニュースレターは、「他の患者たちも回復している。」という内容のもので、回復の有無を被験者が主観的に判断する研究で、被験者を誘導するようなニュースレターが送られてきたことは、研究の方法論的にも、倫理的にも大きな問題があるとされている。
これに対する応答として、Pace Trial研究者側の反論も掲載されている。

現在、ME/CFS専門医や研究者、患者会や啓発家がテレビやメディアに出演、投稿し、シャープ氏の論文を猛烈に抗議し、論文の撤回を要求している。
論文自体に、ME/CFS患者への支払いをなんとかこばみたい政府や保険会社との利害関係、
方法論的問題や倫理的問題があるのであれば、研究結果をそのまま鵜呑みにすることはできないが、患者の側からすれば、少しでも回復する可能性があれば、それに挑戦するか否かは、患者の選択と決断によると思う。
ただ、問題は、この研究結果が、海外メディアによって間違った解釈で大々的に流れており、「CFS患者は運動することを恐れているだけだ。」「CFSは、ポジティブ思考と運動で治る」という見出しの記事の掲載やテレビ放送がなされ、ME/CFSに対する誤解がますます広がることを懸念し、患者会は対応に追われている。
 
 
以前の問題は、ME/CFSは存在せず、「心の問題だ。」「怠けているだけだ。」と言われ、
精神疾患として扱われて認知行動療法や段階的運動療法を強制され、重症化することだった。
 
デンマークのME患者カリーナ・ハンセンさんは、この11月7日に精神科病棟での3回目の誕生日を迎える。
 
MEという診断を精神科医によって取り去られ、警察官の介入によって強制的に家族から離され精神科病棟に入れられた。
 
イギリスの小児ME専門医ナイジェル・スペイト氏が彼女を救出するために、セカンドオピニオンを与えるため飛行機でデンマークの病院に向かおうとしたが却下された。
 
2年半の間、認知行動療法や段階的運動療法などの無理な精神医学的な治療を受け続け、今では、さらに重症化し、家にいた時にはなかった脳の障害も起こしているそうだ。
 
ME患者を心因性疾患として扱うことで政府は医療費を削減し、保険会社も支払いをしなくてもすむという政府や企業側の事情がある。
今回の論文は、ME/CFSが、重篤な身体疾患であることを研究チームは認めた上で、尚、患者たちが労作後の疲労や悪化を恐れて、運動や活動をしない状態が障害を助長しているとして、心理的アプローチによって不安や恐怖を取り除き、前向きな思考と運動で治療していくというものだ。
頭からME/CFSは存在しないとして、心理的アプローチを強要するという以前のとらえ方とは異なる。
以下は、この論文の発表を受けて書かれたイギリスデイリーテレグラフの記事である。
すぐに、ME Associationが、デイリーテレグラフとの抗議と交渉により、デイリーテレグラフの記事に誤りがあったことをテレグラフ側も認め、オンライン上で記事の訂正を行い、ME Association側の認知行動療法や段階的運動療法に対する見解を掲載した。
 
 
デイリーテレグラフの記事
「慢性疲労症候群患者は、前向きな思考と運動で症状を緩和できる ~オクスフォード大学 筋痛性脳脊髄炎は、実は慢性疾患ではない~」
 
 
翻訳・要約
 
 
2年間にわたる患者の経過観察の結果、認知行動療法によって、患者の考え方を変化させ、段階的運動療法をした患者のほうが、他の治療を試みた患者より、疲労の程度が緩和し、日常生活がもっと楽に過ごせるようになった。
 
多くの慢性疲労症候群患者が、運動は症状を悪化させると信じているが、2年にわたる研究の結果、認知行動療法と段階的運動療法に効果があったことをオクスフォード大学のマイケル・シャープ氏が発表した。
 
 CFSまたは、ME全体の治療を見出すのが大変なのは、その病名の傘下に異なる原因によるいくつかの疾患を含んでいるためで、それらをどのように分類するかがまだわかっていない。
 
多くの病名がつけられ、原因としても、感染症、腸内バクテリア、ストレス、うつ病、免疫の問題、外傷、環境毒素、アレルギーなど多くの原因があげられてきた。
 
この研究では、481人の患者を対象に、睡眠障害や吐き気、痛みに対する標準的な薬物治療、ペーシング療法、段階的運動療法、認知行動療法の4つの治療を比べた。
 
前者ふたつには、長期的な効果は見られなかったが、段階的に運動を増やし、「もう二度と良くならない」などの患者の否定的な思考パターンを変える治療に効果が見られたとのこと。
 
シャープ氏は、「この研究結果は、物議をかもし出すだろう」とする。
 
「なぜなら、少数派の人たちが、この病気が慢性的な病気で回復することはない」と信じているからだ。
 
「彼らは、この研究がCFSを本物の疾患ではなく、心因性の病気だという誤解を生むことを懸念するだろう。」と教授はいう。
 
「患者は、”よくなりたくない”と思っているわけではないが、自分ができる範囲に生活を制限し、自分自身をそのパターンに閉じ込めてしまっている。」
 
この研究に携わったキングスカレッジやクイーンメアリー大学の研究者たちは、患者は、この療法を行うことで病状が悪化することを恐れずに、治療に取り組んでもらいたいと話す。
 
と同時に、この療法がすべての人に効果があるとは言い切れず、まだ研究が必要だとのべている。
 
この研究は、The Lancet Psychiatry に掲載された。
この記事を掲載後、デイリーテレグラフは、記事の内容にあやまちがあったことをオンライン上で訂正し、その後、ME患者のジル・ストラトンさんの話を掲載した。
 
ジルさんは、公務員としてフルタイムで働いていた。スポーツ観戦が大好きで、社交的で、家族とも良い関係にある元気な母親だった。
 
ある時、ひどい風邪を引き、トイレに這っていくことしかできない状態になり、その晩以来、ベットから出ること自体がむずかしくなった。
 
何度もトライし、立ち上がれたとしても、フラフラして起立を保てない状態になってしまった。
 
光や音に過敏で、電話での会話がむずかしくなりフォークを持つだけで体が痛むようになった。
 
視覚がぼんやりし、めまいが続く。
 
2年経過した今でも毎日のようにこのような症状と闘っている。
今ではベッドからリビングルームまで移動したり、家族と会話をすることはできるようになったが、家事も外出も、シャワーも家族やヘルパーの助けが必要だ。
 
そんななか、今回の2年に及ぶCFS研究の結果に期待を寄せていたジルさんだが、テレグラフ誌のヘッドラインを見て、「またか!」と沈み込んでしまったという。
 
ただでさえ、「心の問題だ。」「君の想像だ」「できるのに、怠けているだけ」と矮小化され理解されないME/CFSに対して、
 
「MEは、慢性の病気ではない。前向きな思考と運動をすればMEは治る」という記事が大々的に載ってしまったのだから、怒るのも当然だ。
 
ジルさん曰く、「もしかしたら、そういう方法で治る人もいるのかもしれない。でも、動けないから困っているのに、セラピストが”起き上がって動けば治る”というのには、フラストレーションを感じる。本当に動けたら、どんなにいいか!」
 
「CFS患者は、運動が症状を悪化させると思い込んでいる」と精神科医は話すが、
 
実際に少し何かをすれば、次の日にはベッドから洗面所に行くのに苦労する自分の生活をビデオにとって見せたいほどだとジルさんは訴える。
 
このリサーチの研究結果は、再び、CFSが心因性の病気だという誤解を招く危険性がある。
 
このようなイギリスの動きとは逆に、ノルウェーでは、癌治療のために使われる抗がん剤治療(キモセラピー)が60%以上の患者に緩和や回復を見せたという研究が行われた。
 
ジルさんは、日々の生活の中で症状に耐えながらも、こうした医学の進歩に期待し、間違っていることには間違っていると声をあげることが大切だと話す。
 
個人的な意見になるが、症状のレベルやサブカテゴリー、発症年数によって、認知行動療法や段階的運動療法で実際に症状が回復し、日常生活が楽に過ごせるようになる人が本当にいるのなら、それは、その患者にとっては、朗報だと思う。
患者は自分の意志で治療法を選ぶ権利がある。
 
しかし、実際にこの療法によって症状が重症化し、再起不能な状態になった患者がいるということ、
また、この研究自体に、ME/CFS患者にかかる支出をおさえたい政府や保険会社の不純な動機がもし本当にあったとしたら、鵜呑みにすることはできないというのも事実だ。
研究の方法論にあまりに多くの倫理的、方法論的問題があることを世界の著名な研究者たちが指摘していることを考えるとき、安易に「これがMEの治療法だ」とは言い切れない、、、。
心臓のペースメーカーをつけている心臓疾患患者や嚢胞性線維症患者よりも歩ける距離が短かったME/CFS患者さえも、「回復した」と分類されているこの研究をどうとらえるべきか、、、。いち患者としては、悩むところだ。
 
 
認知行動療法によって、否定的な思考を肯定的な思考に変化させることは、ME/CFS患者に関わらず、どんな病気の人でも(たとえ、健康な人でも)ある程度の効果は示すだろうと思う。
 
運動療法にしても、運動療法をしている効果だけでなく、「よくなるために、やっと何か具体的に行動を起こし、自分がME/CFSであることを信じてくれて、それを一緒に助けてくれる療法家がいてくれる」という安心感が与えられるとしたら、これもまた、ある程度の精神的効果があるのではないかと思う。
私個人としては、鬱病を併発していた時期、オーストラリアで認知行動療法を受け、自分自身もその療法を学んだことがあるが、これらには思考の癖に気付き、現実的に物事を判断し、感情や行動をコントロールするという精神的な効果があり、反応性うつ病や不安に対処するという意味で効果があった。
ME/CFSの症状自体への効果はなかったが、病気とうまく付き合っていくという意味で特に害があるわけではなく、補助的な役割をする療法として私自身はとらえていた。
どちらにしても、この論文が問題視されているのは、認知行動療法や段階的運動療法が補助的な役割としての療法ではなく、CFSの身体的な主症状から回復するための主な治療法として取り上げられていることやその研究に「政治とカネ」が絡んでいた可能性とその研究方法の未熟さである。
これから、コロンビア大学の免疫研究や日本の脳炎研究が、具体的にME/CFSのバイオマーカーを確立し、ノルウェーの研究による抗がん剤投与(キモセラピー)や便移植などが治療法として確立されてくれば、自然にさまざまな誤解もとけるだろう。
 
もしかしたら、そのような進歩によって、軽症、中等症、重症者の違いや機能的な障害が原因の人と器質的な障害が原因の人が客観的に見分けられるようになり、または、CFS診断を受けているが実はうつ病や他の精神、または身体疾患であることを識別できるようになるかもしれない。
 
それぞれの段階や年数、障害に適した治療法が確立され、これらの認知行動療法や段階的運動療法も、もっと客観的で倫理的な再研究によって、ある段階の患者や反応性うつ病を併発している患者には有効だと認められる日が来るかもしれない。
 
こうして、色々な側面からの研究が行われ、ぶつかりあい、批判しあいながらも、最終的にパズルのピースが組み合わされて完成され、ME/CFSの治療法が解明されることを心待ちにしている。
*この記事は、認知行動療法や段階的運動療法を肯定、または、否定するものではなく、最近のME/CFS界の流れと筆者個人の意見を述べるものです。