筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)ってどんな病気?

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は普通の日常生活を送っていた人が、ある日突然(または、徐々に)、神経系、免疫系、内分泌・代謝系の異常や脳の機能障害を起こし、長期的に健全な日常生活を送れなくなる原因不明の難病です。 慢性疲労や精神的な疲れとは異質の病態です。

 
エネルギー産出に異常をきたしており、身体的、知的労作の後に、神経免疫系の極度の消耗が起こり、全身倦怠感や激しい疲労感に襲われます。そのほかにも、微熱、リンパの腫れ、頭痛、筋肉痛や関節痛、筋力低下、脱力感、記憶力や集中力の低下、睡眠障害など、多系統にわたる慢性の症状が長期間続きます。
 
運動失調、歩行障害、起立不耐などの症状を持つ患者もいます。
   
重症患者は、自宅療養、寝たきりや経管栄養、車椅子やストレッチャーでの生活を強いられていますが、この病気を診断、治療できる医療機関が不足しており、十分な社会福祉制度も整っていません。
海外では、「筋痛性脳脊髄炎(ME)」(筋肉の痛みを伴う脳と脊髄の炎症)と呼ばれている国もあり、筋痛性脳脊髄炎(ME)は、世界保健機関(WHO)では神経系疾患として分類されています。
 
 
日本でも、2014年4月4日、理化学研究所と大坂市立大の研究グループがCFSには脳内で起こる慢性炎症が深く関わっていることを発表しました。2014年10月末にオクスフォード大学の研究グループもまた患者の脳の異常を画像で証明することに成功しました。
 
しかし、慢性疲労症候群には、さまざまなサブカテゴリーが存在するとされており、病名や診断基準に対する論争が絶えないことも 患者を混乱させる一因です。
2015年2月には、米国医学研究所がSEIDという新しい病名と診断基準を発表しましたが、この診断基準では多くの精神疾患患者も含まれてしまうということで、疑問視する意見も出ています。
 
さらに、見た目が健康そうに見える患者たちは、苦しい症状の上に、「ただ怠けているだけ」と理解されないばかりか、診断・治療をしてくれる医師が見つからない、福祉サービスが受けられないなどの二重、三重の苦しみを経験しています。
現在、世界各国でバイオマーカーの確立や脳の炎症を抑える薬の開発などが進められ、ME/CFSは、未だかつてない飛躍の段階に来ており、患者たちにも希望の光が見えてきています。
また、2016年3月には、厚生労働省研究班による臨床診断基準案が改定され、そこでは、世界との歩調もあわせて、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)という病名が使用されていることも注目に値することです。また、脳脊髄液減少症が慢性疲労症候群の合併疾患としてリストされています。
 
一日も早く、医療制度と福祉制度が整えられ、医療関係者や医学生に対する正しい教育がなされること、患者が人間の尊厳を守れるような生活ができること、そして、ME/CFS患者の癒しとこの病気の原因と治療法が確立されることを心からお祈りしています。
 

 


ME/CFS患者の主な症状                (各種診断基準からの要約・抜粋)

日常生活での活動や知的作業などの簡単な労作の後に急激な身体的・認知的疲労、消耗、衰弱が起こる

 

消耗は、活動直後、または、数時間、数日後に遅延して起こる場合もあり、神経免疫の極度の消耗は、何日も、何週間も、また、それ以上持続しうる。

 

情報処理障害や短期記憶の喪失  

      

思考の鈍化、集中力低下、錯乱、二つの仕事を同時に行う際の認知のオーバーロード、決断力低下、ゆっくりとしかしゃべれない、失読症、言語検索障害、何を言っていたかわからなくなる、情報回想力低下など

 

全身の疼痛、頭痛、筋肉や関節の激しい痛みなど

 

睡眠リズム障害、疲労回復のなされない睡眠

 

 


神経感覚、知覚、及び運動障害 

       

光、騒音、臭気、味覚、触覚に対する敏感性、筋力低下、麻痺、立位での不安定感、運動失調など

 

免疫系、胃腸器系、泌尿生殖器の機能障害 

  

インフルエンザ様症状、ウイルスに感染しやすい、腹痛、腹部飽満、過敏性腸症候群、尿意切迫感、頻尿、食物・薬物アレルギー、リンパ節圧痛、科学物質過敏

 

エネルギー産生・輸送の機能障害 

      

起立不耐性、神経調節性低血圧、動悸、ふらつき感、空気飢餓感、努力呼吸、恒温調節不全、四肢冷感、極度の温度に対する不耐性など



日本における診断基準

日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合開発研究事業 神経・筋疾患分野「慢性疲労症候群治療開発と治療ガイドライン作成」研究班のホームページはこちらをご覧ください。

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)臨床診断基準(案) (2016年3月改訂)


Ⅰ.6ヵ月以上持続ないし再発を繰り返す以下の所見を認める
(医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること)

1. 強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下*
2. 活動後の強い疲労・倦怠感**
3. 睡眠障害、熟睡感のない睡眠
4. 下記の(ア)または(イ)
(ア)認知機能の障害
(イ)起立性調節障害

Ⅱ.別表1-1に記載されている最低限の検査を実施し、別表1-2に記載された疾病を鑑別する
(別表1-3に記載された疾病・病態は共存として認める)


*:病前の職業、学業、社会生活、個人的活動と比較して判断する。体質的(例:小さいころから虚弱であった)というものではなく、明らかに新らたに発生した状態である。過労によるものではなく、休息によっても改善しない. 別表2に記載された「PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」を医師が判断し、PS 3以上の状態であること。
**:活動とは、身体活動のみならず精神的、知的、体位変換などの様々なストレスを含む。

 

 

別表1-1. ME/CFS診断に必要な最低限の臨床検査


(1) 尿検査(試験紙法)
(2) 便潜血反応(ヒトヘモグロビン)
(3) 血液一般検査(WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像)
(4) CRP、赤沈
(5) 血液生化学(TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、γ-GT、BUN、Cr、尿酸、 血清電解質、血糖)
(6) 甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体
(7) 心電図
(8) 胸部単純X線撮影


 

 

別表1-2. 鑑別すべき主な疾患・病態


(1) 臓器不全:(例;肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など)
(2) 慢性感染症:(例;AIDS、B型肝炎、C型肝炎など)
(3) 膠原病・リウマチ性、および慢性炎症性疾患:
(例;SLE、RA、Sjögren症候群、炎症性腸疾患、慢性膵炎など)
(4) 神経系疾患:
(例;多発性硬化症、神経筋疾患、てんかん、あるいは疲労感を惹き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ 頭部外傷など)
(5) 系統的治療を必要とする疾患:(例;臓器・骨髄移植、がん化学療法、 脳・胸部・腹部・骨盤への放射線治療など)
(6) 内分泌・代謝疾患:(例;糖尿病、甲状腺疾患、下垂体機能低下症、副腎不全、など)
(7) 原発性睡眠障害:(例;睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど)
(8) 精神疾患:(例;双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症など)


 

 

別表1-3. 共存を認める疾患・病態


(1) 機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome: FSS)に含まれる病態線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、化学物質過敏症、間質性膀胱炎、機能性胃腸症、月経前症候群、片頭痛など

(2) 身体表現性障害 (DSP-IV)、身体症状症および関連症群(DSM-5)、気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)

(3)その他の疾患・病態   
起立性調節障害 (OD):POTS(体位性頻脈症候;postural tachycardia syndrome)を含む若年者の不登校

(4)合併疾患・病態
脳脊髄液減少症、下肢静止不能症候群(RLS)


 

 

別表2. PS(performance status)による疲労・倦怠の程度(PSは医師が判断する)


0:倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる
1:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある
2:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感のため、しばしば休息が必要である
3:全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*1
4:全身倦怠感のため、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*2
5:通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である*3
6:調子の良い日には軽労働は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している
7:身の回りのことはでき、介助も不要であるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である*4
8:身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している*5
9:身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている


 

疲労・倦怠感の具体例(PSの説明)
*1 社会生活や労働ができない「月に数日」には、土日や祭日などの休日は含まない。また、労働時間の短縮など明らかな勤務制限が必要な状態を含む。
*2 健康であれば週5日の勤務を希望しているのに対して、それ以下の日数しかフルタイムの勤務ができない状態。半日勤務などの場合は、週5日の勤務でも該当する。
*3 フルタイムの勤務は全くできない状態。
ここに書かれている「軽労働」とは、数時間程度の事務作業などの身体的負担の軽い労働を意味しており、身の回りの作業ではない。
*4 1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態。収益につながるような短時間のアルバイトなどは全くできない。ここでの介助とは、入浴、食事摂取、調理、排泄、移動、衣服の着脱などの基本的な生活に対するものをいう。
*5 外出は困難で、自宅にて生活をしている状態。日中の50%以上は就床していることが重要。

海外におけるME/CFS診断基準

現在、20以上の診断基準が存在すると言われており、海外では、元々筋痛性脳脊髄炎(ME)と呼んでいる国やそのように呼ぶことを主張する研究者・専門家や患者会があります。その妥協案として、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)と呼ぶ傾向があるようです。その反対に、筋痛性脳脊髄炎と慢性疲労症候群が同義ではないという考えの患者会も存在しています。

 

2015年2月には、米国医学研究所が新しい病名 Systemic Exertion Intolerance Disease(SEID:マークハウス訳”全身性労作不耐病”)、及び診断基準を発表しています。病名や診断基準における論争が今も続き、患者は苦しい症状と無理解、福祉サービスを受けられない状況に加えて、病名や診断基準の論争の狭間で何重の混乱と苦しみを余儀なくされています。

 

筋痛性脳脊髄炎ー国際診断基準(英語原本)
カナダの診断基準をベースに、2011年に書かれた筋痛性脳脊髄炎の国際診断基準。世界各国のME/CFS専門医、患者団体がアメリカCDCに対して慢性疲労症候群という病名に対する抗議と国際診断基準を使用するための署名運動などを行っている。
Myalgic Encephalomyelitis International
Adobe Acrobat ドキュメント 1.2 MB
カナダ診断基準ー筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(英語原本)
研究用診断基準としても使用できる臨床医のための診断基準
Canadian_ME_Overview_A4.pdf
Adobe Acrobat ドキュメント 975.7 KB
ME/CFSガイドライン サウスオーストラリア診断基準と医師用ガイドライン(英語原本)
2004年にオーストラリアにて一般医向けに書かれた最新の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診断基準と管理ガイドライン
c6a_mecfsguidelines Australia.pdf
Adobe Acrobat ドキュメント 456.4 KB
Beyond Myalgic Encephalomyelitis/ Chronic Fatigue Syndrome
米国医学研究所(IOM)の発表した新しい病名と診断基準についてのパワーポイント
MECFS_Powerpoint.pdf
Adobe Acrobat ドキュメント 589.3 KB

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